第57回日本推理作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞など、数々の賞を受賞した歌野昌午さんのミステリー。
「何でもやってやろう」屋を自称する元私立探偵の成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う弟分の芹沢清から、彼の想い人・久高愛子の頼みを引き受けて欲しいと相談される。愛子の頼みとは、悪質な霊感商法を行っている「蓬莱倶楽部」という団体の調査だった。彼女の祖父が悪徳商法に引っかかり、多額の保険金をかけられ殺害された疑いがあるという。
そんな折、将虎は駅で飛び込み自殺を図ろうとした女性・麻宮さくらを助けた。何度か会う内に将虎はさくらに惹かれていくのだが……。
将虎の蓬莱倶楽部内偵とさくらとの恋愛を中心に、探偵事務所に勤めやくざの内偵をした時の事、かつて将虎と友情を築いた男性の事、不可解で意味ありげな夜の場面、蓬莱倶楽部に関わり悪に堕ちていく女性、様々なシーンが交錯しながら物語が進んでいて、一見、何の関わりがあるのかわからないシーンがどう繋がるのかとページをめくる手が止まらなかった。
多くの人が騙されたと聞いて「私は騙されないぞ」と構えていたけど、読み始めの数ページから歌野さんの仕掛けた術中に嵌まってしまった。重大なネタバレになるから詳細は書けないけど、伏線の貼り方が巧みで、また読み手に上手く先入観を与えながら所々に違和感を注ぎ、真相が明かされた後にしれっとした顔で「そっちの思い込みだろう?」と言う流れに感服。はい、仰るとおりです。言葉によってそれぞれが受ける印象のあいまいさを上手く突いた作りだと思った。
ラストのあざといまでにかっこいい将虎の台詞も、過去の体験が活きていてジーンとする。
タイトルに含まれた意味も温かさや優しさが込められていていい。
将虎のようなバイタリティに溢れ全てをポジティブにとらえる生き方は、自分には到底出来ない生き方だけど憧れもする。
胸の悪くなるような事件を通して最後に残ったのは希望、細かいツッコミ所はいくつかあるものの、「まぁ、いいか。」と思わせられる力を持った作品。
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