デビュー20周年を迎えた長野まゆみさんの'92年の作品。
自治区・氷の塔(セラック)に暮らす少年・百合彦は、友人の野茨に宇宙港へ呼び出される。そこで野茨の母が、野茨そっくりな少年のレプリカを伴って宇宙船に乗り込むのを目にして以来、野茨の様子がおかしくなった。
そしてある日、飛行船からばら撒かれたサーカス団のチラシに誘われチケットを買った後、野茨の姿は消えた。百合彦と従弟の葡萄丸は、野茨にそっくりなレプリカ少年が属するサーカス団のテントへ向かう。闇市で非合法に売買されるレプリカ、「自分はレプリカかもしれない」と言い出す野茨。白亜とカルシウムから成る街で、本当の存在、心の拠り所を求める少年達の夏は過ぎていく。
長野まゆみさんの作品は初めて手に取ったのだけど、旧字体を多用した文章が、レトロと近未来が同居する世界観と相まってとても魅力的[[pict:kirakira2]]
自分そっくりのレプリカが知らない間に作られていて、しかもその依頼主は母親。もともと母親を毛嫌いしている野茨だけど、その衝撃の深さから自分の存在を見失ってしまう野茨の姿に胸が痛む。そしてレプリカと本物の野茨との見分けが付かない百合彦の混乱と、そんな百合彦を不安に思う野茨。自分が自分であるというアイデンティティは、実は脆く危ういものなのかもししれない。それでも、作られてしまったレプリカ達自身に罪は無く、記憶や自由意志を与えられる彼らもまた悲しい存在だと思う:;
また、5年前に別れて以来連絡の途絶えた父を待ち焦がれながら、期待を裏切られる事に怯える葡萄丸。葡萄丸は親も友人もすぐ側にいる野茨に嫉妬と羨望の入り混じった複雑な想いを抱えている。「ぼくには誰もいない」と言う葡萄丸の言葉は悲しく突き刺さるように響く。
不安や淋しさを抱えながらも、強がって軽口を叩き合う少年達の姿がとても切なくて美しい[[pict:yellow2]]
ラストシーンで百合彦を待ち受けている出来事。淡々と描かれているけどよくよく読み返すとなんて悲しく残酷な終わり方なんだろうと思う。これがこの作家の持ち味なのかな?
意識や心って何なのか、目に見えず形の無いそれを何をもってして本物だと判断するのか。それは相手を信頼するかどうかに繋がっていて、それはこのお話のような本物かレプリカかというファンタジックな話だけじゃなく、人の誠意や善意を本物だと信じられるかどうかにも繋がっているように思う。
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