11日に
演劇集団キャラメルボックスのハーフタイムシアター『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』を観て来た♪
『すべての風景の中にあなたがいます』(原作:『未来(あした)の思い出』 梶尾真治)
熊本に住む広告デザイナーの滝水浩一は、白鳥山に登った4月のある日、雨に降られ頂上から降りてきた女性と共に洞で雨宿りをする。浩一が持っていたコーヒーを飲みながら話し2人は打ち解ける。浩一はもう一度会えるようにと秘かに願って自分の住所と名前が書かれたリュックカバーを彼女に渡し、止み始めた雨の中彼女は去って行った。その後浩一は彼女の手帳が落ちている事に気付き、藤枝沙穂流という彼女の名を知る。
沙穂流からの連絡は無く、意を決して浩一は手帳の住所を頼りに沙穂流の家を訪れた。しかしそこに住んでいたのは、藤枝沙知夫と詩波流という若い夫婦のみだった。だが浩一は沙知夫と詩波流の2人と沙穂流がよく似ている事に気付く。数日後、街で偶然藤枝夫妻に会った浩一は「先日生まれた娘に"沙穂流"と名付けた」と聞かされる。
白鳥山で出逢った沙穂流は、目の前にいる赤ん坊の未来の姿なのか?
美しい白鳥山で起きた、30年の時を超える幻想的な恋愛物語。
『光の帝国』(原作:『光の帝国』収録『大きな引き出し』 恩田陸)
小学4年生の春田光紀は、読んだものを1度で全て暗記し、しまった記憶は決して忘れないという能力を持っていた。光紀の姉・記実子も彼の両親も同じ力を持っている。彼らは「常野」と呼ばれる代々不思議な力を持つ一族であり、彼らは迫害を恐れそれをひた隠しにして生きていた。
ある日の下校中、光紀は平家物語を暗唱していた所を1人の老人・猪狩義正に見られてしまう。光紀が怪我をしている事に気付いた猪狩は、自分が経営する医院に連れて行き手当てをする。古典文学を好む猪狩は光紀を気に入り、光紀も猪狩に心を開いていった。
ある日光紀が猪狩と彼の長男・悠介との確執を知った後、猪狩は倒れ病院に運ばれる。両親の都合で引越す事になってしまった光紀は、家を飛び出し猪狩が運ばれた病院へ駆けつけた。発作を起こした猪狩の手に触れた瞬間、光紀の脳裏に猪狩の記憶が雪崩れ込み光紀は昏倒してしまう。5日後、昏睡状態から覚めた光紀は猪狩が他界したと聞かされた。猪狩の記憶を見て彼の悠介への想いを知った光紀は……。
『すべて―』、滝水と彼の友人・加塩とのやり取りがとても楽しかった
加塩カッコイイし
加塩の細かいボケと滝水の突っ込みや、2人のふざけ合いが長年の友人っぽくリアルで楽しい
滝水の回想シーンにその場にいなかったはずの加塩がちょっかいを出そうとして滝水に怒られる、なんていうシーンは舞台ならではの演出で面白かった。
人の手が入っていない太古の自然が残る白鳥山で、30年の時を超え出逢い一目で惹かれ合った滝水と沙穂流。いつでも逢えるわけではなく、触れ合ったのは雨宿りをした1度だけ、自分達が30年の時を隔てていると知った後は、雨宿りをした洞へ手紙を残して心を通わせる2人のピュアな想いに惹き付けられる。
実際には有り得ない事だけど、2人の愛した白鳥山にはそんな事が起きても不思議はない神秘さがあるんだろうと感じた。自分は一目惚れをしない性質だけど、こんな恋は憧れる
「同じもの(白鳥山)を愛している人となら、どんな障害があってもうまくいく」一字一句まで同じじゃないけどこういうニュアンスの事を沙穂流が口にする。とても共感でき、また沙穂流の強い想いを感じられる台詞だった。台詞の一つ一つがストレートで心に響いてきた
『光の帝国』、猪狩の老人が持つ頑固さや寂しさ、素直になれない厳格な父親の姿、ベッドの上で見せた悠介を想う表情、すべてに惹き付けられた
演じているのは私とさほど年の変わらない役者さんなんだけど、60年の人生を重ねてきた"猪狩義正"にしか見えなかった。凄く素敵だった
映画監督を目指した悠介と、医師を継がせたかった父。「俺は人形じゃない!」と叫ぶ悠介と「だったら出て行け」と言い放った父、兄を憎み「自分が医師を継ぐ」と決めた弟・康介、すれ違う3者の想いと、秘かに悠介の夢を応援していた不器用な父の姿、光紀によって父の想いを知った悠介の姿にジーンとする
親って無条件に子どもを大切に想っているものなんだと感じた。
以下ネタバレを含みます。ご注意下さい。
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『すべて―』、30年の時に隔てられ会えない2人。滝水が沙穂流の肖像画を何枚も何枚も描いたという所に会えない切なさと深い愛情を感じた。
沙穂流の現在では沙穂流の両親は震災で亡くなっていると聞かされた滝水が、自分の現在で沙穂流の両親を救おうと奔走する様、そして「歴史は変えられない」と知った姿に胸が痛む
そして変えられない歴史は滝水にも振りかかる。沙穂流に「12月30日にあなたは白鳥山で行方不明になってしまう」と聞かされ、そして「白鳥山へは行かないで」と告げ、それ以来沙穂流との交流は断たれてしまう。沙穂流は滝水に生きていて欲しいと願ったんだろう。滝水が白鳥山へ行かなければ、手紙による交流は出来なくなるけれど、沙穂流の現在で生き延びて年を取った滝水に会えるから。けれど滝水は自分の現在で、出会った時の沙穂流に会いたいと願う。それには白鳥山へ行って沙穂流の時代に行くという奇跡が起きなくてはいけない、沙穂流の時代へ行きたいという強い想いと白鳥山が奇跡を起こすある一定の条件を信じ、その日滝水は加塩が必死で止めるのも聞かず白鳥山へと飛び出していく。そして起きた奇跡。死ぬかもしれないという危険を冒してでも沙穂流に会いたかったという滝水の想いの強さに、恋をすると周りが見えなくなるのは男性の方なのかも、とも思った。奇跡を起こした恋にもジーンとしたんだけど、友人を失った加塩が可哀想だとまず思ったのは私が加塩を演じた役者さんが好きだからだろうか……?
沙穂流の両親を救うのに失敗したのは何故なのかとか、「沙穂流の時代ではコーヒーは貴重品」だという設定は必要だったのかとか、滝水が未来へ飛んだ事でタイムパラドクスは起きないのかとか、細かい疑問が残るけど、1時間という短い上演時間でそこまでの説明は不可能なんだろうと思った。2時間の本公演でやってほしかった気もするなぁ。原作は未読なんでどうなっているのか見てみたい。
『光の帝国』、光紀の4年生時の物語は回想シーンとして描かれる。現在、映画監督である悠介が光紀と出会って15年前に体験したこの事を元に、常野一族の事を調べそれを映画化しようとしていて、それを止めさせるべく光紀と記実子が悠介を訪れる所から始まる。けど、前述のように猪狩義正と悠介があまりにも素晴らしかったから、現在のシーンがあまり印象に残ってない……
過去で父の想いを知り「ありがとう」と涙した悠介が現在、やさぐれた雰囲気を纏ってぴりぴりした空気を醸し出していたのは何故なんだろう?15年の間に何があったのか知りたい所。
「僕たちは、無理やり生まれさせられたのでもなければ、間違って生まれてきたのでもない。それは光があたっていると同じように前から決まっている決まりなのだ」
冒頭でスクリーンに映し出され作中にも口にされる印象深い「お祈りの言葉」。すべての命には意味があり、その重さは等しく同じである事、光は誰の上にも降り注ぐものだというふうに感じた。
こちらも原作は未読なので、読んでみたいと思う。
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