ルパンと言っても三世にあらず。シャーロック・ホームズと並び全世界中で人気の怪盗紳士、アルセーヌ・ルパンが初登場した作品。
9編の連作短編。
子どもの頃からホームズやルパンは大好き。どっちかというとルパンの方が好きだなぁ。
大西洋を航海する客船プロヴァンス号に緊急無線が入る。
「貴船にルパンあり。一等船客、金髪、右腕に怪我、偽名はR…」
無線はそこで途絶えてしまいルパンが名乗る偽名は頭文字しかわからない。世間を賑わせたあの怪盗紳士がこの船にいる、この中の一体誰がルパンなのか? 一等船室は興奮と恐怖と疑心暗鬼に包まれる―(『ルパン逮捕される』)
このプロヴァンス号が港に着いた時、ルパンは待ち構えていたガニマール警部に逮捕されてしまうのだけど、その後第3話『ルパンの脱獄』見事に脱獄、この脱獄にかけたトリックがまた素晴らしい
鮮やかな手腕で欲しい物を手にする怪盗かつ詐欺師でありながらも、貴族や富豪の家からしか盗まず、女性や子ども、弱い立場の者達を守り助ける紳士的な姿はひたすらかっこいい
それに紳士的でニヒルなイメージとは裏腹に、プロヴァンス号で出会い恋した女性に自分がルパンであると知れたら恐れられ嫌われるのではないかと怯えたり、数年後に盗みに入った先でその女性と再会してしまい目の前のお宝を諦めたり、怪盗デビューとなった事件では盗み先の主人に騙され利用されてしまったり、完璧ではない人間臭い面も描かれていてさらに魅力が増す
そしてルパンと言えば変装の名人でもあるけど、彼の変装の手段はメイクと服装を変え、薬で皮膚や髪の色、声等を変える程度で大掛かりな事はせず、見た目を変える事よりも話し方や仕草、表情や立ち振る舞いを変えるといった並外れた観察力と役者としての才能を必要とするもの。同じく変装の名人であるルパン三世や怪人二十面相と比べると、現実的で高い技術を必要とする変装術で、怪盗として生きるルパンの並々ならぬ努力が伺える。優雅な紳士のイメージがあるけど、努力家で苦労してきた影が垣間見え、そこがまた彼の魅力に繋がってる
アルセーヌ・ルパンというと荒唐無稽な冒険物と見られがちだけど、ミステリ小説としても質の高い謎解きを楽しめると思う。
『ルパン逮捕される』にも短い中に叙述トリックとクローズド・サークルが盛り込まれ、『獄中のアルセーヌ・ルパン』や『ルパンの脱獄』にも心理的トリックや綿密な計算によるトリックが駆使されていて、ルパンの行動に片時も目を離せない
それと、『奇怪な旅行者』を始めルパン自身が自分の名誉の為に謎に挑むエピソードもあり、ミステリー、サスペンス、冒険譚、様々な要素が詰まっていて何度読み返しても飽きる事はない。
アルセーヌ・ルパンが世に登場したのは今から100年も前の事。現代でも多くの人に愛されるルパンの魅力がつまった作品だと思う。
PR
http://suigyokukan.kagome-kagome.com/%E6%84%9F%E6%83%B3%E8%89%B2%E3%80%85/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%B9%EF%BD%A5%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E8%91%97%E3%80%8E%E6%80%AA%E7%9B%97%E7%B4%B3%E5%A3%AB%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%B3%E3%80%8Fモーリス・ルブラン著『怪盗紳士ルパン』