江戸の町を舞台にした異色で痛快な一話完結型連作捕り物帳。
宝永元年(1704年)。江戸の町を騒がせているのは、人の弱味につけ込んで悪行を働く輩を一刀の元に斬り捨てる正体不明の正義の味方、通称・赤頭巾侍。彼の正体は、永福寺の寺子屋で子ども達に読み書きを教える浪人・久留里一太郎。瓦版屋の勘太から情報を得るとすぐさま成敗に向かう一太郎だったが、その後定廻り同心の小田左右衛門之丞和正から「そいつは下手人ではない」と聞かされ狼狽する。しかし思考を巡らせ下手人の不可能犯罪の策を見事に破るのだった。
そして一太郎には父親の仇を探すという目的もあった。仇の名前も素性も解らず、手掛かりは凄腕の剣客である事と死の間際に父が残した謎の言葉のみだった―
事件が起き、下手人と思しき男の情報を得てすぐさま成敗、その後「そいつに犯行は不可能だ」と聞かされ無実の人間を思い込みで斬ったのかと狼狽し、思考を巡らせ(ちょっと強引な推理で)謎を解く。絵に描いたような勧善懲悪ストーリーと、お約束的展開の繰り返しがテンポ良く進み、直情型の一太郎の人柄と相まって軽快に読み進められた
そして繰り返されるお約束パターンの中に、父の仇を探す一太郎、赤頭巾侍の正体を探る小田、一太郎に思いを寄せる永福寺の娘・おゆうと剣術道場の娘・小雪、いつからか永福寺に住み着いたなまぐさ坊主の法源和尚、主要な登場人物の思いが盛り込まれ、終盤には意外な展開で魅せてくれる
同心の小田が、その名の由来になっている小田和正さんの曲の歌詞に乗せて繰り返し呟く唐突な台詞(しかもそれは一太郎への秘かな想いだったり
キャッ)などに、作者の遊び心が伺えて面白い
仇討ちは江戸時代には幕府も認めた合法的な行為だった。けれど、仇討ちを果たした一太郎は寺子屋の子ども達にこう語る。
「敵を討ったら、またその討たれた敵の親族が、討った者を恨むようになる。恨みが続くのさ。だから、敵討ちなんざ誰かが止めなきゃならねぇ。」
静かに強く語るその言葉に一太郎の虚しさと淋しさがにじみ出ていて、それまでの痛快なノリとは裏腹なこの場面にジーンとした
難しい事を考える事無く、思い込んだら一直線の異色な正義の味方が繰り広げるお約束満載の時代劇で楽しかった
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